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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)12114号 判決 1985年7月26日

原告 村越德三郎

<ほか一九名>

右原告ら訴訟代理人弁護士 浅井利一

右同 北川雅男

被告 東田不動産株式会社

右代表者代表取締役 田丸実

<ほか一名>

右被告ら訴訟代理人弁護士 斉藤晴太郎

主文

一  被告東田不動産株式会社は、原告らに対し、別紙物件目録(二)の一記載の建物について、東京法務局渋谷出張所昭和四八年九月一九日受付第四一三四二号所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。

二  原告らの被告東田不動産株式会社に対するその余の請求、被告田丸実に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告らと被告東田不動産株式会社との間では被告東田不動産株式会社に生じた費用の二分の一を原告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告田丸実との間では全部原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告田丸実は、原告らに対し、別紙物件目録(一)の一及び三記載の土地について、別紙敷地持分等目録持分欄記載の共有持分の割合による所有権移転登記手続をせよ。

2  被告東田不動産株式会社は、原告らに対し、別紙物件目録(一)の二記載の土地について、右1の共有持分の割合による所有権移転登記手続をせよ。

3  被告東田不動産株式会社は、原告らに対し、別紙物件目録(二)の一、二の建物について、専有部分の建物の各表示登記及び東京法務局渋谷出張所昭和四八年九月一九日受付第四一三四二号及び第四一三四三号の各所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  別紙物件目録(二)記載の一棟の建物として表示されている建物(以下「本件建物」という。)は、被告東田不動産株式会社(以下「被告会社」という。)の建築所有するものであり、また、東京都渋谷区恵比寿南三丁目一四番四宅地五七八・九五平方メートル(以下「一四の四の土地」という。)及び別紙物件目録(一)一ないし三記載の各土地(以下「本件各土地」あるいは「本件一ないし三の土地」という。)のうち本件二の土地は被告会社の、本件一及び三の土地は被告田丸実の各所有である。

(二) 原告らは本件建物の専有部分である別紙敷地持分等目録建物番号欄記載の各区分建物を所有し、かつ本件建物の敷地である一四の四の土地及び本件各土地を同目録持分欄記載の各共有持分(以下「本件共有持分」という。)の割合によりこれを所有している。すなわち、右区分建物及び右敷地の共有持分を、原告中宮、同川嶋、同小野、同加瀬、同山城、同井上(以下「原告中宮ら」という。)は、被告会社及び被告田丸より買受けた同目録前者取得年月日欄記載の者より買受け、その余の原告らは被告会社及び被告田丸より直接買受けたものである。

(三) しかるに、被告らは、本件建物の敷地につき、被告会社において一四番の四の土地について原告らに所有権移転登記手続を了したのみで、本件各土地については右手続をなしていない。

2(一)  被告会社は、本件建物一階の一〇一号室及び一〇二号室について、これをいずれも本件建物の専有部分であるとして、一〇一号室については、別紙物件目録(二)の一記載のとおり表示の登記をなしたうえ、東京法務局渋谷出張所昭和四八年九月一九日受付第四一三四二号をもって所有権保存登記を経由し、一〇二号室については、同目録(二)の二記載のとおり表示の登記をなしたうえ、同出張所同日受付第四一三四三号をもって所有権保存登記を経由している。

(二) しかしながら、一〇一号室は、内部に本件建物の各専有部分を集中管理する消防設備、警報設備等の恒常的共用設備が設けられ、常時来訪者、郵便物の処理ができる構造になっており、現に本件建物の管理人の管理の用に供されているものであるから、構造上当然の共用部分(法定共用部分)とみるべきものであって、専有部分たり得ないものである。

(三) また、一〇二号室にも恒常的共用設備である非常用通信設備が存しており一〇一号室と同様に法定共用部分とみるべきものである。

3  よって、原告らは所有権に基づき、被告田丸に対し、本件一及び三の土地について本件共有持分割合による所有権移転登記手続を、被告会社に対し本件二の土地について右同持分割合による所有権移転登記手続及び別紙物件目録(二)記載の各区分建物について表示登記及び所有権保存登記の各抹消登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(一)は認める。

(二) 同(二)のうち、被告田丸が原告らに対しその主張の持分割合により本件一及び三の土地を売渡したこと、被告会社が同割合により本件二の土地を売渡したことは否認し、その余は認める。

(三) 同(三)は認める。

2(一)  請求原因2(一)は認める。

(二) 同(二)のうち、一〇一号内部に警報設備が設置されていることは認めるが、その余は争う。

一〇一号室は独立した構造を有していて、本件建物の他の部分とは明確に区別され、被告らが本件建物一、二階で営む訴外東光園緑化株式会社の事務所として独立した用途に供すべく設置されたもので、現にそのように利用されてきたものである。また、右警報設備等は、いずれも他の場所への移動が容易であり、右設備の利用は、異常時又は定期点検の折り等極めて頻度の少いものであって、このような設備が存するからといって利用上独立性がないとはいえない。

(三) 同(三)は争う。

一〇二号室は完全な区分建物であって、およそ共用部分とはいえない。

第三《証拠関係省略》

理由

一  請求原因1(一)の事実(本件建物が被告会社の建築所有に係るものであり、一四の四の土地及び本件二の土地が被告会社の、本件一及び三の土地が被告田丸の所有であること)、及び同(二)の事実中、原告らが本件建物の専有部分である別紙敷地持分等目録建物番号欄記載の各区分建物及びその敷地である一四の四の土地を本件共有持分割合により、被告会社より直接あるいは被告会社より買受けた者より更に買受け、これを所有していることは当事者間に争いがない。

二  本件土地の売買について

原告らは、本件各土地についても、本件建物の敷地として本件共有持分割合によりその所有権を取得した旨主張し、本件建物の宣伝用パンフレットと認められる甲二号証には、本件建物の敷地面積として、一四の四の土地と本件各土地の面積を合計した一五二三・八五平方メートルに近似した一五一七・七一平方メートルと記載され、また、《証拠省略》を総合すれば、本件建物の建築確認にあたっては、一四の四の土地のほかに本件各土地の相当部分が、右確認に必要とされる敷地として申請がなされ、右建築確認における建物敷地面積は一四七二・二二平方メートルとして確認されていることが認められる。しかしながら、甲二号証は宣伝用のパンフレットであって、右記載から本件各土地が本件建物敷地として売買の対象になっていたとは直ちに認め難く、また、建築確認において必要とされる建物敷地とは、防災等公益的要請から要求されるものであって、必ずしもそれが私法上、建物と共に取引の対象となる建物の所在する建物敷地(なお、区分建物の敷地については、建物の区分所有等に関する法律二条五項参照)と一致するものとはいえず、右事実のみによっては、原告主張の売買の事実を認めるには十分でないといわねばならない。

そして、《証拠省略》によれば、本件建物は一四の四の土地上に所在し、登記簿上も所在土地としては一四番の四の土地のみが表示され、原告ら所有の前記区分建物の売買契約にあたっても、一四の四の土地のみが売買対象地とされていることが明らかである。

したがって、本件各土地について売買のあったことを前提とする、原告らの本件移転登記請求は理由がない(なお、原告中宮らについては、直接、被告会社、被告田丸より買受けたと主張するものではなく、被告らに対する本訴請求が認められるためには、原告中宮らと被告ら及び被告らより買受けた者との間の移転登記に関する中間省略の合意を要するものと解されるところ、右合意の主張も立証もなく、その点からも原告中宮らの本件移転登記請求は理由がない。)。

三  本件各登記の抹消請求について

1  請求原因2(一)の事実(本件建物一階の一〇一号室及び一〇二号室について、被告会社名義で、本件建物の専有部分として原告ら主張の表示登記、所有権保存登記がなされていること)は当事者間に争いがない。

原告らは、右各室は建物の構造上当然の共用部分(いわゆる法定共用部分)であり、専有部分ではないと主張するところ、建物の部分が専有部分であるかどうかは(逆にいえば、法定共用部分かどうかは)、当該部分が、建物の区分所有等に関する一条の要件(構造上、利用上の独立性)を満たしているかどうかによって決せられるべき事柄にほかならない(なお、同法二条一項、三、四項、四条一項参照)。そこで、以下、右各室について右要件の有無を検討する。

2  一〇一号室について

当事者間に争いない事実、《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(一)  一〇一号室は床面積一二・五七平方メートルの事務所様構造の建物部分で、本件建物の他の部分とは構造上壁天井等により明確に区別されている。一階の玄関ホール及び駐車場に接していてホール側に入口扉が存し、ホールを通って外部と出入りするようになっており、ホール側、駐車場側とも隔壁の上半分にはガラス戸が入れてあり、外部からの出入りの監視、あるいは出入りする者との応待に便利な構造になっている。また、内部の壁には、警報器、各室からの連絡に必要な装置、電話、火災の際の非常放送用設備等の本件建物の管理に必要な共用設備が設置されている。

(二)  本件建物は一二階建て、戸数三六で、建築後、被告会社で管理人を雇い本件建物の管理をなしてきたものであるが、原告ら居住者と管理費の使途などをめぐって紛争が生じ、原告らにおいて昭和五四年一〇月、管理組合を設立し、以後は同組合において管理を行うようになり、昭和五五年七月以降は、ビル管理会社である株式会社神代が同組合と管理委託契約を締結し、管理を行っている。一〇一号室は、建築当初、被告らが本件建物の一、二階で営む訴外東光園緑化株式会社の事務所として受付事務処理のために利用するとの目的を兼ねて設置されたもので、被告会社が本件建物の管理をしていた当時は、一〇一号室を管理事務の用に供するほかに、右受付事務の用にも供していたようであるが、管理組合が管理を行うようになって以後は、専ら管理事務のために利用され、現在は入口扉に管理室と表示され、株式会社神代の従業員が毎月一〇一号室につめて、管理事務に従事している。右認定事実によれば、一〇一号室は、その構造上独立した建物部分であることは明らかであるが、他方、本件建物建築以来現在まで、訴外東光園緑化株式会社の受付事務の用に供されたことはあったにしても、本件建物の管理の用に供されてきているもので、その床面積、構造からみても管理事務に適当な形態を有しており、内部には警報装置等各種共用設備が設置されているというのであるから(なお、右訴外会社も本件建物の一、二階で営業しているというのであるから、その受付事務というのも広くは本件建物の管理の一つといえなくもない。)、その主たる利用は本件建物の管理の用に供することにあるものというべきであり、その意味で一〇一号室は管理という本件建物居住者の全体の用に供されるべきものであって利用上の独立性がなく、本件建物の専有部分とはなり得ず、法定供用部分と認めるのが相当である。

被告らは、警報器等の共用設備が容易に移動可能であり、かつその利用頻度も少いものであるから、これらの設備の有することは、利用上の独立性を否定しない旨主張する。しかし、一〇一号室は、要するにその全体の構造が管理の用に供するのに適しており、かつそのように利用されてきているが故に法定供用部分と認むべきものであり、右設備の移動可能性等の事情は右認定を覆すものではない。

したがって、一〇一号室について、これを法定供用部分として同室についての所有権保存登記の抹消登記手続を求める原告らの請求は理由がある。原告らは、右保存登記のほかに一〇一号室の表示登記の抹消登記手続も求めており、確かに同室が専有部分たり得ないものとすれば、右表示登記も許されるべき筋合のものではなく、抹消されてしかるべきものである。しかし、不動産登記法上、表示登記は所有名義人等に対し登記申請権を認めているとはいえ、元来が登記官の職権で行うよう定められており、登記法上申請権を認められていない者であっても、登記官に対し職権の発動を促すことにより、表示登記を行うことは可能というべきであるから、表示登記の存在により、当該表示に係る不動産の所有権の行使が妨げられており、かつ表示登記の抹消が右職権の発動を促す方法によっては困難である等の特段の事情があれば格別、そうでない限り私人間において表示登記の抹消登記請求権を認める必要はないというべきであり、本件において、原告らに右特別事情を認めることはできないので一〇一号室の表示登記の抹消登記手続を求める原告らの請求は理由がない。

3  一〇二号室について

当事者間に争いのない事実、《証拠省略》によれば、一〇二号室は、床面積二五・〇二平方メートルで、本件建物の他の部分とは壁、天井等により明瞭に区別された三畳、四畳半の二部屋等からなる建物部分で、出入口は一つで直接外部に通じており、被告会社が本件建物を管理していた当時雇っていた管理人が宿泊用に利用していたものであり、管理組合が管理をするようになって以後は利用されておらず、特段の共用設備も存しない(原告らは共用設備として非常用通信設備があると主張するが、右が本件証拠上具体的に何を意味するものか不明である。)ことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、一〇二号室は構造上独立していることは明らかであり、また、床面積等からして人が独立して利用するに十分な構造を有しており、現在までの利用状況も管理人が宿泊のため利用していただけで特段の共用設備もないというのであるから、利用上も独立性を有しているものというべく、本件建物の専有部分と認めるのが相当である。

したがって、一〇二号室について本件建物の法定共用部分であることを前提とする登記の抹消手続を求める原告らの請求は理由がない。

四  以上のとおり原告らの本訴請求は被告会社に対する主文第一項掲記の限度で理由があるのでこれを認容し、被告会社に対するその余の請求、被告田丸に対する本訴請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小田泰機)

<以下省略>

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